マニュアルカメラの楽しみ方


 現在スチルカメラといえば、シャッタ−を押すだけで誰にでも美しい写真が撮れるフルオ−ト機が主流になっている。しかし著者(あうくだの父)が写真を趣味として始めた中学生の頃はまだオ−トフォ−カスはおろか自動露出カメラもまだなく、ピントも露出もすべて手動、外付けのストロボもまだ高価だつたのでフラッシュバルブを使っていた。カラ−プリントの料金も1枚50円と今より高かった。写真を撮るということは、それなりに技術と心構えが必要な時代でもあった。時代は変わったが、マニュアル機は現在でも主なカメラメ−カ−から発売されており、プロカメラマンにも愛好者が多い。今回はマニュアル機ならではの使い方と良さについてお話しよう。 マニュアル機はその完成度の高さと販売台数の少なさもあってか、ひとつのモデルが10年以上も販売されるケ−スもめずらしくない。変化の速いパソコン界とはおお違いである。使用したカメラNikonFM10は、その中にあって昨年末に発売された新型である。35〜70mmズ−ムレンズとケ−スがついて実売価格38000円とはおすすめだ。ただしストロボは別、より高度な写真を撮りたい人には単体の露出計もあったほうが良い。マニュアル機の良さは、第一に写真の基本がいやでも身に付くことにある。ピントも露出も撮影者自らが設定する事によって、その意思が作品に反映されやすい。ただ動きの速い被写体や、明るさが目まぐるしく変わるスナップ撮影には向かないことはたしかだ。


 まずは多重露出、フルオ−ト機では1枚撮影するごとに必ず巻き上げてしまうのでまねできない機能だ。使い方は簡単、1枚撮影した後多重露出レバ−(写真1)を引きながら巻き上げレバ−をまく。これで同じコマの上に何回でも露光することができる。たとえば都会の夜景を撮っていて、あのビルの間に月があったら絵になるなあと思った時など、別の方角に出た月をちょうどビルの間の空にあわせて写しこめば、自然なかんじの出来上がりになる。またケンコ−からSQコンポジットマスクセットという商品名で多重露光用のマスクが発売されている。(写真2) 1/2と1/4を黒く塗ったアクリル板を回転させて使用する。写真3はこれを使って同一人物を2箇所に写しこんだものだ。

 またマニュアル機は天体写真夜景など長時間露光にも強い。電磁シャッタ−のオ−ト機はシャッタ−が開いている間電流が流れているので途中で電池がなくなってしまう心配がある。写真4は大坂城天守閣を30秒ほどシャッタ−を開けて撮ったものだが、その間にもってきた懐中電灯で周りの桜にライトを当てて怪しげな雰囲気をつくってみた。このほかマニュアル機には電池が無くなっても撮影できる、故障が少ないといった利点がある。
 みなさんもマニュアルカメラで写真の奥深い世界をのぞいてみませんか。


   

96年9月号