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ティールームへようこそタイトル

 第三回 真冬のミルクティー


 こんにちは。あうくだの母です。この連載も三回目。そろそろまともな話をしなければ。前回までは私の子供のころの話題でしたが、今回は学生時代のとあるお店との出会いと、その後をお話したいと思います。


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イメージイラスト イメージイラスト  いまを去ること十?年前、私は学生生活を謳歌していました。外国語の予習や月一回のレポート提出のための資料集めに忙殺されながらも、それなりに友人たちとのつきあいを楽しんでいたのです。そのころ、友人のひとりに「ここの紅茶がおいしいのよー」とつれていってもらったのが、大丸梅田店10階のロンドン・ティールームでした。
 家具売り場の奥の、さらに奥まった狭い通路を通って店内に入ると、アンティーク調の椅子とテーブルが並んだこじんまりとした空間が現れました。壁にかかっている絵やさりげなく置いてある調度品は落ち着いた雰囲気で、気取った感じはありません。友人はここで扱っている紅茶の種類の多さを説明し、自分はロイヤルミルクティーがいちばん好きだと言いました。
「ロイヤルミルクティー? 普通のミルクティーとどう違うの」
 いまでこそポピュラーなロイヤルミルクティーですが、当時はそれほど知られてはいませんでした。私もせいぜいダージリンとかセイロンとかいう茶葉の名前を聞きかじっていた程度で、このときはじめて「ロイヤルミルクティー」なるものを知ったのです。

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イメージイラスト イメージイラスト  一応説明しますと、ロイヤルミルクティーとは茶葉を牛乳で煮出して作るミルクティーのこと。店によってはカルダモンやシナモンなどのスパイスを入れるところもあります。厳密に言えばこれはインド風もしくはセイロン風の飲み方で、時々「本場英国風のロイヤルミルクティー」などと書かれていると、心の中で「?」と思ってしまいますが。
 ともあれ、友人にすすめられて、私はそのとき生まれてはじめてロイヤルミルクティーというものを飲みました。おおぶりのカップに入れられたその紅茶は、濃くてまろやかでおなかの中がしっかり温まる、なんともいえない幸せな味でした。ミルクたっぷりの紅茶をひとくち、あたたかいスコーンをひとくち、そのくりかえしが私をほのぼのとした気分にさせてくれました。
 それ以来、梅田に出かけたときは必ず、ロイヤルミルクティーを飲むためにロンドン・ティールームに立ち寄ります。昨今の英国紅茶人気で、このごろは午後2時ごろになると何人かの人が列を作っていたりしますが、よほど急いでいるときでもないかぎり、ここでのティーブレイクは欠かせません。ただ乳幼児をつれていくには不向きな場所なので、私もあうくださんが生まれてから2年以上は足が遠のいていました。しかし行けないとなるとますます行きたくなるもの。とうとうあうくださんが2歳4カ月のとき「チョコレートケーキを食べに行こう」と誘って一緒に行ってしまいました。

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イメージイラスト イメージイラスト  それまでにも近所の喫茶店にちょくちょくつれていき、「お店の中では静かに食べる」とか「お店の中で走り回らない」などと予行演習(?)はしていたのですが、さすがに幼児連れでは断られるかとドキドキしました。幸い、店のかたも快く迎え入れてくださり、私は久しぶりにロイヤルミルクティーを堪能することができました。もっとも、ケーキを食べ終えたあうくださんがぐずりだす危険性もあったため、あまりゆっくりはできませんでしたが。
 最近では家でもよくロイヤルミルクティーを作ります。個人的には濃くてパンチのある味になるアッサム茶か、独特の香りのあるアールグレイでいれます。夜、なかなか寝つかれないときにはアールグレイの茶葉を少なめにして作ります。ベルガモットの香りと牛乳のやさしい味が、緊張した神経をほぐしてくれます。また、真冬の思いっきり寒い日には、濃い目に作って砂糖もたっぷり入れたものがおすすめです。寒風吹きすさぶ外から帰ったときに、甘くてあたたかなロイヤルミルクティーは最高!  カロリーのこと等つい考えてしまいますが、真冬のロイヤルミルクティーには砂糖入り、できれば脂肪分の多い特濃牛乳で作ることをおすすめします。ほんと、おいしいんですから。

 あー、ようやく「エッセイ」らしいまっとうな話が書けました(……これでも?と切り返さないでくださいねー)。次回もなんとか脇道にそれずにいけるといいのですが。よろしくおつきあいください。

 ではまたお会いしましょう。  (つづく)


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1999年2月号

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